ポポポポポポポ (豆鉄砲を乱射する音)
「私、海岸でゴミを眺めたりするの好きなんだよね」
砂浜に転がったペットボトルをポコンと蹴り飛ばしながら、唐突にそんなことを言う。
「変な趣味」
「割と面白いよ、ゴミはゴミでも色んなのが落ちてるし」
「例えば?」
「この前は、赤と緑と黄色のボーダーのヘルメットとデッキブラシのブラシの部分だけが2本落ちてたの」
手ぶりをつけながら、珍しい海岸ゴミの話をする。
「なにそれ」
「それで、なんでこんなのがここに流れ着いたのか不思議だなって思って、色々考えてみたの」
「ほんとに変な趣味」
言いつつも、海岸ゴミの話を楽しそうにする姿にトキメキを隠せずにいた。
「最終的に、高層ビルの窓掃除の仕事をしてた人が仕事に嫌気が差してデッキブラシを折ってヘルメットと一緒に投げ捨てたんだろうなーって答えに辿り着いた」
「ブラックな労働環境だったんだね」
「投げ出したくなる時なんて誰にだってあるよ……って、海の向こうに向かって念じておいた」
久方ぶりに悲しい彼のことを思い出して、今はどうしているかな、なんて考えながら、なむなむ……と呟いて両手を合わせた。
「ふーん……あっ、私も1つ思いついたよ」
「なになにっ」
興味津々といった様子で近寄って、同じように膝を抱えて座る。聞く体勢が整ったところで得意げに言い放つ。
「多分それ、仮面ライダーの布教だよ」
「……?」
頬に人差し指を添わせて首を傾げる。
「3色ヘルメットと、デッキブラシのブラシの部分だけだよね。ほら、カッチョイイ3色のヘルメットにデッキブラシの先端だけくっ付けたら仮面ライダーの頭みたいにならない?」
「あー、確かになるかも」
仮面ライダーの頭を想像しているのか、視線だけ上にやりながら相槌を打つ。
「だからそれを作った小学生がきっと、海の向こうにいる私たちに、「仮面ライダーってかっこいいんだぞ!」ってその手作りヘルメットを流して伝えてくれたんだよ」
「分解して届いちゃったけどね」
「でも私が、1度折れかけたその熱い想いをどうにか形にしたんだねー」
水平線の向こうにいるやもしれない小学生を思い浮かべながら、のんびりと呟く。
「ほら、少しは楽しいでしょ」
そう言った彼女の表情が、にたーっとしていることに気づいて、ほんのり悔しいながらも、
「私も今度1人で海岸にゴミ探しに行ってみようかなって、思えるぐらいには、ね」
今日ばかりは、正直になっておくことにした。